- 1.はじめに
- 2.TPPの現状
- 3.AECの動向
- 4.RCEPとAPECのFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)
- 5.SCO(上海協力機構)、EEU(ユーラシア経済連合)、IORA(環インド洋連合)と一帯一路
- 6.一帯一路とAIIBの将来
- 7.ユーラシアを制するものは世界を制する
- 8.結論 アジア・ユーラシア物流革命時代の到来
1.はじめに:
2017年から2020年にかけ世界は激動の時代に突入する。国際市場のパラダイムシフトが顕在化する。それは二つが牽引する。一つは先端技術、情報技術の革新である。二つ目はグローバル市場軸の欧米からアジアへのシフトである。技術においては第四次産業革命の出現だ。それはドイツのIOT,Internet, AI,Big Dataを活用した「Industrie4.0」をはじめとする中国の「中国製造2025」、米国の「Industrial Internet」の動きである。
グローバル市場の欧米からアジアへの発展軸のシフトはAEC(ASEAN経済共同体)の躍進と中国が主導するユーラシアでの物流、貿易、投資を中心とする環境、エネルギー、文化、教育を含む壮大な「一帯一路」構想と、それを金融面で支援する「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」である。この技術の革新と世界経済のアジアへのシフトが21世紀の世界に激動を齎す。アジア経済発展の主役は中国とインド、そしてASEAN10カ国である。それを「一帯一路」のアジア、中央アジア、西アジア、中近東、アフリカ、ヨーロッパの沿線諸国66カ国が牽引する。21世紀のグローバルマーケットの主戦場は世界最大の版図を有するユーラシアだ。この意味で「一帯一路」と「AIIB」は戦後の欧州経済復興を目指した米国のマーシャルプラン、ブレトンウッズ体制下の 世界銀行、IMF, GATT(現WTO)の世界経済機構にも比肩するアジア、ユーラシアでのアジアの時代を見据えた21世紀の壮大な構想である。わが日本としてもこの構想に参加、協力し、アジア、ユーラシアでの経済開発、平和構築に尽力することを21世紀の日本の戦略とすべきであろう。
2.TPPの現状
米国が主導権を取り推進していたTPP(環太平洋連携)はトランプ大統領が2017年1月脱退を宣言した。このため日本が主導権を取り、米国以外の11カ国を中心にTPP11として交渉を開始。7月12~13日、箱根で開催の首席交渉官会議で11月ベトナムで開催のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議までに結論を出す方向で努力している。だが12カ国のGDPの60%を占めていた米国が脱退したことで40%のシェアーの11カ国での貿易自由化はその効果に疑問がある。日本、豪州、ニュージーランドに比べ米国への繊維品の輸出を期待していたベトナム、家電製品の輸出を志向していたマレーシアなどは米国の離脱で目標が狂い日本などの努力の割には参加国の合意を得るのは容易でないと思われる。
そもそもアジア経済共同体の構築にはまずアジア域内の自由化交渉が中心となるべきを南米のチリ、ぺルー、中米メキシコ、北米のカナダが広大な太平洋を挟んで大洋州の豪州、ニュージーランド、アジアの日本、ブルネイ、ベトナム、マレーシアなど遠隔国同士で自由貿易協定を結ぶのは物流競争力の観点からもAEC(アセアン経済共同体)や中国主導のアジア、ユーラシア大陸をカバーする「一帯一路」構想にくらべて不利であることは自明だ。
3.AEC(アセアン経済共同体)
東アジアの10カ国からなるアセアン経済共同体(AEC)はASEAN設立50年目を迎えて実現した。人口6億人、域内GDP2.5兆ドル。今後アジアにおいてさらに発展していくものと思われる。AECは2030年を目標にさらなる発展をめざしている。21世紀のアジア発展の原動力としてのASEAN域内の後発国ベトナム、ラオス、カンボデイア、ミャンマー諸国も経済発展が加速化しつつある。ASEAN諸国は「一帯一路」の21世紀海のシルクロード通路としてさらに発展が予想される。
4.RCEP(東アジア包括的経済連携)とAPECのFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)
東アジア包括的経済連携(RCEP)はASEAN10カ国に加え、豪州、ニュージーランド、日本、韓国、中国、インドの16カ国からなるアジア、太平洋、南西アジアの経済連携を目指す。RCEPは16カ国合計で世界GDPの約30%、貿易の30%を占める。TPP11のGDP13%、貿易額15%に比べて、はるかに大きなシェアーだ。TPP11の交渉の現状にかんがみ、日本としてはまずアジア太平洋、南西アジアを中心とするRCEP構築に尽力することこそ肝心だ。その成果をもってアジア、太平洋、北米、南米を中心とするAPEC(アジア太平洋経済協力)21か国、地域が目指すFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)構築への努力が肝要であろう。
5.SCO(上海協力機構)、EEU(ユーラシア経済連合)、IORA(環インド洋連合)と「一帯一路」
2001年結成の中央アジア、ユーラシアの協力機構SCO(上海協力機構)は中国、ロシア、タジキスタン、キリギスタン、カザフスタン、ウスべキスタンの6カ国で構成されている。
しかし2017年6月8~9日、カザフスタンのアスタナで開催の第17回首脳会議で結成16年目にして初めて南西アジアの有力国、インドとパキスタンを正式メンバーとして承認した。これにより、SCOは人口30億人、世界人口の約40%を占める巨大経済圏がアジア、ユーラシアに出現することになり、ますますの発展が期待される。
インドはポストチャイナのICT新興国としてさらに活躍するものと思われる。中国の経済発展のペースは6%台に下がり、New Normalになりつつある。一方、インドは経済成長率が2014年以来17年にかけ7%から8%台で推移し好調である。
さらにインドは印度洋に面する21カ国を結集する「環インド洋連合」(IORA)首脳会議をこのほどジャカルタで開催。ASEAN有力国のインドネシアに加え、BRICSメンバーのインド、南アなども参加した。西南アジアでパキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパールなどとも関係が深いインドがSCOに参加したことはSCOに好影響を与えるだろう。
すでにインドネシア初の高速鉄道はジャカルタとバンドン間140キロ総工費50億ドル(5700億円)を中国が全額資金供与し建設することが本決まりとなった。
中國新疆ウイグル自治区とインド洋に面するパキスタンのグワダル港を道路や鉄道で連結するプロジェクトも動き出している。
中国はミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンなどにも融資し、港湾建設を開始。21世紀の海上シルクロード構築を着々と進めている。
一方、カザフスタン、ロシアが主導しているユーラシア経済連合(EEU)はベラルーシ、アルメニア、キルギス5か国が加入。ユーラシアでの経済共同体構築を努力中である。
その中にはホルゴス国際国境協力センターや、中國とオランダを結ぶ道路回廊として2010年に時速150キロの高速道路建設が開始されている。11年には重慶と欧州の直通貨物列車が開通。14年にはイランをつなぐ鉄道も開通。ペルシア湾経由で中東やアフリカへの物流網建設も動きだし、中央アジアはユーラシアの陸の物流のハブとなりつつある。
「一帯一路」は中国、ロシアが主導のSCO, ロシアが牽引しているEEU、さらにとインドが主導のIORAがその下部機構となり、アジア、南西アジア、アフリカ、中央アジア、ユーラシアとの連携がさらに強化されると思われる。/p>
このように「一帯一路」の構想ルートは陸路が
中国から;
- ①中央アジア、ロシアを経由して欧州へ
- ②中央アジア、ぺルシア湾をへて欧州へ
- ③東南アジア、南アジアからインド洋の三つ。
海上は:
- ④南シナ海、インド洋から地中海、
- ⑤南シナ海から南太平洋の二つがある。
鉄道運輸では特に、中國からドイツへの鉄道輸送が盛んである。16年には中国内28都市と沿線11カ国の20都市間に51本の国際定期貨物路線が開業。一日9便、年間1702便に急拡大。このうちドイツ向けが1034便と70%弱がドイツ向けだ。(日経「経済教室」7月21日 唱新・福井県立大教授)
中央アジアを経由する「チャイナ・ランドブリッジ」やシベリア鉄道経由の欧州路線の輸送距離は実に1万2000キロと地球の直径に匹敵する。それでも輸送期間は海上輸送の2分の1から3分の1 に短縮され、競争力を増す。これは将来日本のユーラシア鉄道経由の貿易にも競争優位を齎す。この意味でも日本の「一帯一路」、「AIIB」への参加が切望される。
6.一帯一路とAIIB(アジアインフラ投資銀行)
「一帯一路」はアジアからユーラシア、中近東、アフリカを経てヨーロッパへ向かう陸のシルクロードと、南シナ海からインド洋、地中海を経てヨーロッパへ、それから南シナ海から南太平洋へ向かう21世紀海のシルクロードの物流網構築構想だ。
近い将来、19世紀のスエズ運河、20世紀のパナマ運河に匹敵する物流革命を齎すとみられる北極海ルートの実現が近づいている。ロシア北極海のヤマル半島でのLNGプロジェクトが動き出している。エンジニアリング会社は日本の日揮、フランスのエンジニアリング会社、海運は中国海運会社と日本の三井大阪商船が担当。砕氷付自走のLNG船建造は韓国の大宇造船所が行っている。日中韓仏露連携の大型LNGプロジェクトだ。2018年にはLNG船3隻での北極海航路の通年の運航が始まる。画期的な第3物流革命の幕開けだ。
2017年6月22日にはアジアと欧州を結ぶ最短ルートでオランダの耐氷船「ビッグロール ビューフォート」(2万3143トン)がロシア・ヤマル半島で建造中の液化天然ガス(LNG)施設向けの鉄骨や配管などを積み込み、中国・煙台港を出港。韓国・釜山港、北海道苫小牧港経由 ヤマル半島のサべッタ港へ向かった。ロシア海域でロシア砕氷船と合流する。(どうしんウエッブ7月14日)
アジア開発銀行(ADB)試算によれば2030年までのアジアでのインフラ資金需要は年間1.7兆ドル(約190兆円)という。しかしADBでの年間融資能力はわずか1%の175億ドル(2016年度融資額)だ。この膨大なギャップを埋めるのが参加国80か国、資本金1000億ドルで北京に本店を有するAIIB(アジアインフラ投資銀行)だ。特に沿線66カ国が参加する「一帯一路」諸国向け物流、運送、エネルギー、環境などのインフラ融資はこのAIIBに加え、中國輸出入銀行や国家開発銀行などが出資するシルクロード基金(Silk Road Fund=資本金400億ドル)、上海に本店があるBRICS銀行(1000億ドル、当面は500億ドル)が動き出す。それに上海協力機構(SCO)開発銀行(資本金100億ドルの予定)などが融資する。さらに下記の5基金が融資に協力する体制だ。
- ①中国~ASEAN投資協力基金
- ②中国~ASEAN海上協力基金
- ③中国~ユーラシ経済協力基金
- ④アジア地域協力特別基金
- ⑤中国~中欧基金
AIIBのこれまでの融資は16件、約25億ドル。このうち12件、19億ドルが世界銀行、アジア開発銀行(ADB)、欧州復興開発銀行(EBRD)などとの協調融資で、慎重な運営を行っている。このことが評価され、6月29日には世界的な格づけ会社の米国ムーデイーズ、7月13日には英国のフィッチより最高の格付けトリプルAを取得した。
日本はAIIBはGovernance(企業統治)人権、環境面からも問題ありと批判している。しかし世界の主要80か国が参加しているAIIBに日本も早急に加盟し、一帯一路構想に参加しなければ、ユーラシアの開発から取り残され、悔いを千載に残すことになるだろう。
7.ユーラシアを制するものは世界を制する
地政学者で有名な英国のマッキンダーは『ユーラシアの心臓部、中核を制する者が世界を制する』と主張。米国のスパイクマンは『ユーラシア大陸の周辺沿岸部を制する者はユーラシアを制し、世界を制する』と喝破した。『ユーラシアの地政学』石郷岡建pp144~149
カーター大統領元補佐官のブレジンスキーは『地球上で最も重要な舞台のユーラシア大陸への積極的関与が米国の覇権維持のためには必須だ』と21世紀に最大の発展をするユーラシアの重要性を強調している。グローバルビジネス、グローバルマーケテイングの観点からも21世紀はユーラシアを制する者が世界を制する。21世紀はユーラシア大陸が世界の貿易・投資・物流の主戦場になることは経済史的にも地政学上、地経学上も間違いない。
水野和夫法政大学教授は「海を制した18~19世紀のオランダ、英国、20世紀の米国に代わり、21世紀は陸を制するEU,中国、インド、ロシアが発展する」と予測しておられる。
『閉じ行く帝国と逆説の21世紀経済』(集英社新書)PP121~129
日本はアジアからヨーロッパに続く世界最大の版図を有するユーラシアの重要性を認識し、「一帯一路」、「AIIB」への参加を21世紀の世界戦略としてこの機会に真剣に考えるべきだ。2017年5月14~16日、29カ国の首脳、70の国際機関代表、130か国の代表、合計1500人が参加した初の「一帯一路」首脳会議で習近平国家主席は最終日に次の点を強調。
- 1.「一帯一路」を平和、繁栄、開放、創新、文明の道に
- 2.400億ドルのシルクロード基金を2千億元(約1兆6400億円)増資する
- 3.中国国家開発銀行、輸出入銀行がインフラ整備などに3800億元の特別貸出しを行う
- 4.会議期間中30以上の国と経済貿易の取り決めに調印。関係国と自由貿易協定を協議
- 5.2018年から中国輸入博覧会を開催
- 6.今後3年間に「一帯一路」建設に参加する途上国と国際機関に600億元を援助
- 7.「一帯一路」沿線の途上国に20億元の緊急食糧援助を行う
- 8.国際機関による沿線国家への協力事業に10億ドル(1130億円)を提供する
次回「一帯一路」首脳会議は2019年にインドでの開催が決定した。
8.結論 アジア・ユーラシア物流革命時代の到来
アンガス・マデイソン教授によれば、1720年代は印度と中国の2カ国で世界のGDPの60%のシェアーを有していた。まさしくPAX Chindia(筆者の造語)の時代であった。
18世紀後半に英国での蒸気機関発明による産業革命で人類は「農耕時代」から「工業時代」に突入。経済の発展軸が英国へ移動した。PAX Britanicaの到来である。その結果、「七つの海を制し、日没することなき大英帝国」が出現した。
その英国も第二次世界大戦で疲弊。戦後、世界経済発展の軸は米国へ移動。
PAX Americana 時代が到来。米国が世界に君臨した。しかし米国も2008年のリーマンショックを機に国力が低下。21世紀に入り、世界経済の発展軸がアジアに回帰しつつある。再び、PAX Chindia、PAX Asianaの時代が到来。アジアが急速に発展興隆しつつある。21世紀の国際市場競争は価格、品質は均等化し最期の競争優位の要因は物流費の削減だ。中国が主導する「一帯一路」戦略はアジアからヨーロッパへ陸と海から物流網を構築し、競争優位を目指す国際貿易、投資戦略である。国際競争力は運賃、物流費が決め手だ。
ICT, AI、ロボテイクス、Industrie 4.0などの第4次産業革命時代を迎え、品質、価格はほとんど均質、均等化しつつある。グローバルマーケテイング時代の最期の競争優位の要因は物流費の削減だ。物流・輸送戦略が21世紀の国際競争力を左右する。この意味で中国主導の「一帯一路」戦略は「ユーラシア物流戦略」だと言っても過言ではない。
まさしく物流でユーラシアを制する者が世界を制する。「一帯一路」戦略は19世紀のスエズ運河、20世紀のパナマ運河に続き、アジアからヨーロッパにまたがる世界最大の版図のユーラシア大陸を陸と海から結節する21世紀の壮大なグローバル物流戦略だ。
さらに第4の物流革命としてこのユーラシア大陸の北辺部、北極海航路の海運革命が2018年に実現する。「一帯一路」は世界の経済、物流に一大革命を齎すだろう。
米国の有名なシンクタンク国際戦略研究所(CSIS)も中国主導の「一帯一路」(Belt and Road Initiative)の政治、戦略的な影響に関して関心を有し、「中国のユーラシア世紀は到来するか」と題する研究会を8月2日、関係者を集めてワシントンで開催する。
かかる状況下、わが日本がこの「一帯一路」構想と「AIIB」への参加に出遅れることは歴史に逆行することとなり悔いを千載に残すことになるだろう。一日も早い日本の参加を真剣に検討すべきだ。
以上
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