年の暮先夜に積もった雪が眩しい朝だった。
 食後新聞を読んでいる時、隣の居間の裏庭に面したガラス戸に何か柔らかい塊のようなものが当たる音がした。風もないのになんだろうかと訝りながら放っていた。その数分後先に倍する強烈なバサバサ、バサバタという音が聞こえて来た。しかも今度は執拗に続いている。今まで聞いた経験のない音に居間へ飛んでいった。そこに見たのは一羽の鳩より小さめの黒い鳥影だった。何とそれがガラス戸の棧に逆さまに掴まって一杯に広げた羽でガラスを叩いていたのである。
 こんな光景は80余年の人生での初体験である。が事情は察せられた。餌の少ない時節の上に積雪でひもじいに違いない。早速家内に言ってみかん、バナナの輪切りをステンレスの盆に入れガラス戸の下に置いた。まもなくバサバタの主らしい鳥が飛んできてついばみ始めた。戸の影から観察したところ尾が長めで全体に灰褐色、頭部や頚は緑灰色。餌をつついている間に時折左右を見ながらピーッピーッと鳴く。ヒヨドリである。
細身で可愛い彼はその後1週間ほど毎朝バサバタをガラス戸の上で鳴らし餌をねだった。あれから3ヶ月が過ぎた。今では朝昼夕を問わず舞い戻ってきては餌をついばむ。空になるとガラス戸を時にバタバタし催促する、これに家内と競って餌を足す。まるで嘗て二人でした孫達の子守の再現である。
7人の孫達は今や成人したり、高学年になって我が家に寄り付かなくなっている。その代役をバタちゃんが勤めてくれていると認識するべきか・・・と考える今日この頃である。

“ひよどりの 押しかけやよし 柿若葉”

(了)