ニチメン在職中の若いころ、私は米国ニチメンの法務担当としてニューヨークに赴任せよとの要請を人事部から受けた。その後その件は消え赴任先がサンパウロとなってよかったが、当時米国の法律家団体Bar Associationの中に日本商社の法務担当の米国での就労を制限する要求が強かったためであった。
なぜ総合商社が日本にしかないのかを考えるヒントがここにある。欧米の労働組合は職能別であり、日本の労働組合は企業別である。欧米では他業種や他国の同業者が職域を侵すようなら労働組合が反対する。日本企業では労働条件に格段の不利益を与えない限り、企業内で自由に労働組合員を管理部門・営業部門間で、また国内店・海外店間で移転することができる。この違いが企業の生産性に影響するし、総合商社などの成否に決定的に影響する。経営者もそれを知って労働者に国内外へ留学させたり、企業内でいろんな技能を習得させたりする。
双日未前のニチメンではこれがうまく実行されて、私たちは入社後ほぼ全員がまず管理部門のどこかに配属され、財務経理・人事総務・審査法務・企画広報・保険運輸などの基礎を学んでから営業各部に配属された。業容拡大の途上で起きる新分野の人材の要求に応じるために、営業部門・管理部門相互間だけでなく、営業各部門間・管理各部門間や、海外店間や海外店と国内店間でも人材移転が行われた。その結果海外店の現地人を含め、各部・各部門の垣根をこえ協力して仕事を作り上げるスタイルが確立し、企業統治・リスク管理にも役立った。今も社友会・OB会の集まりにその雰囲気が反映されている。
ニチメン在職時の晩年に、私は中化総公司(北京)の総合商社化に協力して総合商社活動のいろんな局面を見せまた講義したが、成功しなかった。国外では、日系企業以外でこのような仕事のしかたを習得し実行する考え方や社会基盤がないからかもしれない。
このような日本的農耕文化の良さが総合商社を含む日本企業内でも失われつつあるが、そのぶん国公立・私学を問わず日本の大学・高校がいろんな技能・文化や多角的視野をもつ人材の養成に力を入れていて、総合商社はこうした人材を自由に採用することができる。今までも学歴社会でないといわれてきた総合商社がより多学歴化するだろう。このような多彩な人材で構成される総合商社の活動はどうあるべきか。私の答えは図のとおりである。紙数がないので図だけを提示する。不正確な表現もあるが、図を見て考えていただきたい。
なお英米系企業は部門ごとに10%以上の利益率を要求するから総合商社が成り立たない、との説もある。
三方よしと日本の貿易-日本の経済と貿易のあるべき姿
(1)現状(=新「武家の商法」・日本伝来商人道の対極。新唯物論+新自由主義)
(2)今後(世間よし・三方よし。国力善用・自他共栄。日本伝来商人道への復帰)
非増税・やや円高でデフレ・軽武装・思いやり予算をやめて義務教育無償化。
韓朝和平と日中アジア友好の推進。自衛隊付き永世中立への憲法改正。
総合商社10社時代(1960-2000)の再招来と浮き利・賄賂・放漫経営の反省に基づく企業統治の確立。上記商人道実践を支援するのが武士道。両者は二本柱。
(3)今後の総合商社の役割・・・投資と取引の合わせ技ができる、総合事業運営・事業投資会社としての総合商社は、世界できわめてまれな業態である(田中隆之)。
【参考文献】 拙著『国際事業投資の諸局面』現代図書、2004年。
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