39年入社の社員は120名を超え、その多くが10年程前に「毎日が日曜日」の生活に入り、今は各人各様の第2の人生を謳歌しています。その多くは自らの趣味を中心に年金生活を享受していると思いますが、「サラリーマンだった」と驚かせる過去の経歴から想像つかない別世界に進み成功した人もいます。その一人が、ここに登場する藤田画伯(藤田康弘君、大阪自動車部出身)です。画伯は趣味を超えた才能の世界で卓越した実績を残しているし、今後さらなる傑作を生みだすのではないかと思わせる「創造の世界」を歩んでいます。
以下に画伯の制作上の苦労や苦心や工夫や苦闘振りの紹介を試みたいと思いますが、その前に来年(2018年)5月16日~28日東京新国立美術館(六本木、乃木坂)で開催されます「第70回三軌会展」の会場に出向いていただき、画伯の新作をご鑑賞いただけば、私の拙稿などよりはるかに、画伯のすごさに直接触れ感動が得られますので、会場に足を運んでいただきたくことをこの紙面をお借りしお願い申し上げる次第です。因みに三軌会というのは、絵画部門の他に、彫刻部門、工芸部門、写真部門を有し、日本にある20ほどの有力な美術公募団体のうちの一つで、彼は2014年から応募・参加し、2016年5月に会員に昇格しています。
さて、社友会の皆様は定年を迎えるにあたり、これから有り余る自分の自由になる時間をどのように有意義に、楽しく使うか考えられたことと思います。その後、語学、俳句、ゴルフ、テニス、旅行など皆様、様々なことに打ち込み、熱中されていると思います。でも、藤田画伯のように芸術活動で日本全国規模の展覧会の審査を通り,賞まで獲得するに至る実績を誇る社友会会員の方は大変珍しいと思います。それ故に同期生にとっても誇れる存在となっています。
定年直後のタイミングで「神のお告げ」の声を聞けた幸運の人はめったにいるものではないのです。その声が画伯に届き、その後の人生における生きがいを決めたのです。約十七年前の悩める藤田画伯は、偶然と言うか、神様のお導きによるかわかりませんが、故郷の京都の町を散策中に、ある画廊のウインドウ越しに見た一枚の美しいヨーロッパの風景を描いた水彩画に目と心を奪われたのです。この絵に魅惑され触発された彼はすぐに、その水彩画の作者が開く画塾に通い60の手習いの一歩を踏み出します。すなわち、水彩画の基本、基礎を学ぶのです。ここまでは、誰でもが歩める道だと思いますが、この先で藤田画伯のすごさが発揮されます。彼は師匠の指導や自らの現状の作品に満足せず、自分の描く絵画に新しい命を与えようと新しい画法を生み出すべく、必死の努力と暗闘を数年間続けます。その心血を注いだ苦闘の結果編み出したのが「ラヴァージユ画法」です。この技法は、商標登録もされ藤田画伯のみが使え、使いこなす技法で、この技法で描いた彼の絵画は独特の光彩を放っております。彼によると、ジャンルとしては水彩画に属するが、この技法で描く絵描きは日本にはいない(検証していないので世界中に居ないとは言えない)、日本ではこの技法による作品に出会ったことがない、との事です。画才に恵まれデッサン力や色彩感覚に優れた絵描きはいるが、それだけにとどまり、満足していては日曜画伯に過ぎないと思いますが、そこからさらに進んだ独自の絵画の世界を生み出そうとする人は、若くしてこの道に進むことを選択した人を除けば、限られた人のみが挑む道でしょうが、この挑戦の道に踏み込み画伯はとうとう独自の画法を生んだのです。
そのラヴァージュと言う技法については、HP「水彩画、藤田康弘」に詳しいので興味ある方はそちらをお読みいただきたいのですが、以下に簡略に説明させていただきます。画伯は、一般的な水彩画法による作品に満足できず、何か新鮮味溢れた絵画をものにしたく、日本の綿布の伝統的染色技法「臈纈染(ロウケツゾメ)」をヒントにこれを取り入れることを思いつきます。そして、「アクリル絵の具(一旦、乾燥すると色は落ちない)、透明水彩絵の具(発色が美しい)・不透明水彩絵の具(水で洗うと落ちる)などの異種絵の具の特性を使い分け、絵に独特の味わいを付加する技法を編み出します。もう少し、突っ込んだ説明をするとガッシュ(不透明水彩絵の具)の下塗り、アクリル塗付の後、大胆に水洗をし、絵画に微妙な輪郭線を生み出します。最後の作業では透明水彩画で着色しますが、溜め、滲み、ぼかし,たらし込みを懇切丁寧に、全身全霊を込めて仕上げます。この一連の作業で「偶然性、不規則性の輪郭線」が出現し、画伯の絵画にこれまでと違った生命をもたらすのです。彼の作品を見た仲間の画家たちよりは、“驚いた”、“水彩画らしくない新しい雰囲気”、“根気に脱帽”と言った評価を得ています。「ラヴァージュ」とはフランス語で「洗い」という意味です。上述の通り、絵としては大胆な「水洗」の過程が入るので、この名称を付けて登録商標としたものです。
その完成した絵は、写真の通りですが、白黒の上、極端に縮小したものですので、作品の持つ素晴らしさや新鮮味や繊細な筆運びや色彩の濃淡の細かいニュアンスや画伯の持つ大作を描き上げる熱意と情熱が十分伝わりませんので、ぜひ作品をご鑑賞することを強くお勧めいたします。
それでも、あえて筆力がないことを恨みつつ少しでも画伯の絵画と傑作を読者の皆様に思い描いていただくべく、画伯の2017年度「三軌会」に展示された大作を再現してみたいと思います。
題材は、イタリアのフィレンツのドームです。夕陽に映えるフィレンツの町に聳える教会とその背景にある町が120号の画面いっぱいに展開します。夕陽が町全体を照らしており、町の陰陽を見事に描きだしていますが、ラヴァージュ画法が遺憾なく発揮されているのがドームの屋根の部分です。一枚一枚の瓦が懇切丁寧に精密に描かれ、光との交流を、通じ描き出され、その上ドームの夕陽に映えたり陰ったりとまるで印象派が「光」をいかに具現化するか、闘い模索したことを彷彿とさせるような絵画となっています。
- 花の聖母大聖堂・フィレンツェ
- 制作:2017年3月
- ラヴァージュ画(水彩画)
- 120号(200x130cm)
来年の三軌展は第70回記念展となります。
2018年5月16日〜28日、国立新美術館(六本木)で開催されます。
“百聞は一見に如かず”、来年の東京、京都の「三軌展」に足を運ばれ、われらが仲間の労作、傑作を鑑賞され堪能されることをお勧めします。
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