人生の終幕期にかかり100年に一回のパンデミックのコロナ災禍に出会い、ウイズコロナそしてポストコロナの時代を送ることになりました。この状況を、“長く生き過ぎた事への災難”と考えるか、“貴重な体験”と喜ぶべきなのか…。
人間が生まれた時に定まる“定命”は動かしがたく、与えられた命をしっかりと刻んでいくこと、そして85歳の人生を慈しみ、一日一日を感謝を込めて自然体で過ごすこと、これが今日の私の生き方です。
私はニチメン生活30年、第二の人生をゴルフ業界で20年、そして最後のラウンドで奨学金事業に携わって来ました。振り返る社会人としての人生は全て沢山の方々との出会いであり、そこから生まれて来た無数のドラマの積み重ねの日々でもありました。ご縁の有った数々の有能な友人、知人、同僚に恵まれ、支えられた幸運な軌跡の毎日であったように思われます。
最終ラウンドでの奨学金事業への参入は、全てのサラリーマン生活が終了した、今から7〜8年前、70歳後半からのスタートです。その動機は、喜寿の歳を迎え、一期一会のご縁で過去にお世話になった方々への感謝と仏縁の思いを込めて四国88か所の歩き遍路を思い立ちその途次、何か形であらわす社会奉仕への想いに駆られ、ちょっとしたご縁から奨学金事業に加担することになり、現在に至っております。
その顛末については公益法人協会の機関誌に巻頭言として寄稿した内容をご覧ください。
私は昭和、平成、令和に生をはぐくみ、昭和では幾多の若者が戦争の災禍で無念な命を落として行く中、幸い私の世代は戦後の困難から復興と繁栄の時代を謳歌、戦争の無い平和な時代を過ごすことが出来ました。そして今、令和の時代、COVID-19という災禍に見舞われる中で、今の若者たちは未来を見つめ果敢に生きております。彼らに対して幾ばくかの手助けとなり、次世代の若者を育てたいとの想いは皆さんも同じご意見かと思います。
今世紀初期のパンデミックであるコロナ災禍は、今後の人類の歴史に大きな変化をもたらすことが確実に予想されます。その時のグローバルな全世界の経済と社会の変革は想像を絶するものがあり、既にその兆候が身の回りで起こりつつあります。デジタル化経済への加速、仕事とライフスタイルの変化、グローバル力の異質化、倫理観の向上、不測の事態に対する日常の備え等々。このコロナ期から次の世代に生きてゆく我々財団の奨学金受給生の現在の修業形態は、オンラインと対面講義の二様となり、それぞれ知識の伝達の有利性や思考を深める授業の特異性等新しい体制を作りつつあります。学生たちは、それになじむべく今は手探りで最大の努力をしております。そして彼らはウイズコロナの厳しく且つ制約された
生活環境の中で学業に励み、大きく変わりゆくポストコロナの未来を信じその兆候の表れているウイズコロナの日常に対処し、逞しく強かに毎日の生活を続けております。
私たちの奨学金は総合大学と服飾系大学及び専門学校を対象にしております。
総合大学は学生に対するそれなりの支援体制を打ち出しておりますが、服飾系大学や特に小規模の専門学校にあっては財政的に厳しい経営状況に立たされております。その中、学生への支援にも限りがあり、学生が生活費や学費を捻出するために多大なる努力をしている姿が浮かび上がって来ます。
しかしながら、自分たちに不条理に被さってくる幾多の社会的な試練を若さと未来への希望で跳ねのけて突進してゆくエネルギーと活力は、正に見上げたものです。目標に向かって困難を乗り越え突き進む姿はやはり若者が持つ特権かと、時にはこちらが鼓舞されます。
奨学金事業を立ち上げて今年で7年目、給付対象校とのパイプも出来、毎年50名余の奨学金給付生を積み上げて来ており、公益法人事業としての基盤も確立しました。今年は新しく、コロナ特別奨学金給付を企画し、10月に全国30校79名の学生に給付しました。留学生含め厳しい生活環境の中で勉学に励む次世代の学生たちに幾ばくかでも支援できればと考えております。今年度の奨学生に対しては、オンライン交流会と称してSNSを介した交流会を企画し、日頃の生活の厳しさや悩みを奨学生同士がお互いに話し合える場を提供しております。
この事業は、今後も継続かつ更なる進化を求めて展開していき、後継者としてニチメンの元同僚岡崎謙二氏(財団の業務執行理事)と元自動車部の矢嶋正孝氏(財団事務局長)に引き継ぐことで、更なる内容の充実を図っております。
最後に、私が感じるこの仕事の難しさは、4000名余のパルグループの従業員が苦労して稼ぎ出した原資(浄財)をどのように無駄なく、適切に、そして最も効果的に学生たちに給付していくかと言うことです。人生の半生を商社マンとして人から稼ぎ出すことに専念してきた私にとっては、これは想像していた以上に困難な課題であり、日々、試行錯誤しております。それでも、達成感を味わえるときは、真摯な若者の笑顔と噴き出してくる彼らの未来への活力に出会うときです。ここに生涯ビジネスの醍醐味があります。85歳の人生はまだまだこれからです。
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