1962年の春、大阪中之島ニチメン本社ビルの地下で、オーダー紳士服のオーナーとして注文取りをしていた、井上英隆氏(現バルグループ会長)との出会いは正に一期一会の奇しきご縁でした。
私は学卒後商社マンとしての一歩を、彼は既に学卒後4年の歳月を経て、起業家意欲に燃え、社会人として新しい事業を創設するための地歩を固めているときでした。
それから50余年、半世紀近く私は商社マンとしての人生を、彼は紳士服からスコッチ洋服店を立ち上げ、更なる事業の拡大を目指して幾多の困難を克服し、今や年商千数百億円の一部上場のバルグループ会社としてアパレル業界にその地位を確立しました。
丁度両者が人生の節目の年代になった8年前、井上氏は自らの人生訓“みんなの幸せ”を実現のために自分を育ててくれたアパレル業界への恩返しを思い立ち、その具現化のため“アパレル業界へ巣立つ若者への人材育成”を企図、これが奨学金事業へのステップインの動機です。
小さな財源でより密度の濃い奨学生の育成を考え、ユニークな視点での取り組み、
1)年間30万円の給付型奨学金の支給
2)精神的サポートとしての奨学生相互の幅広い交流による、密度の濃い人材育成を目指す、
この二本の柱を目標としました。
特に奨学生に対する精神的サポートに注力しておりますが、そのポイントは、奨学生の選定には総合大学及び服飾専門学校の2年生以上を対象としております。
趣旨は、入学時は問題なく就学出来たが、一年目にして保護者の予期せぬ状況の変化(死亡、離婚、病気、失職など)により、本人が強い進学意欲があるにも関わらず学業の継続が難しい状況になった学生へ、原則一年間の給付を行います。従って奨学生は就学中特別な事情を背負っており、精神的な支援が必要になってきます。
具体的には相互のメール交換、交流会、学校との連携、年一回の合宿等、奨学生が一堂に会して相互交流が出来る舞台作りを行います。
奨学生の募集は多分野から行い(理科系、文化系の総合大学、家政系大学、服飾系大学、短期大学、専門学校そしてそれぞれの留学生等)受給生の出身とその学業内容は多岐にわたっており、一年間の相互交流は彼らの人生の最も重要な時期での人格形成に多大な影響を与えています、唯財団の使命は飽く迄交流の舞台作りであり、給付生が自ら有意義な人生を自分の力で作っていくことに力点を置いております。自分に課せられた厳しい運命をはねのけ巣立ってゆく、有能な人材が、次世代のアパレル業界を支えることを期待しています。さらにより良い人材育成のために、学校の教育方針を業界のニーズと合体するための産学協同の橋渡しも事業の一環として注力しております
同時にパルグループ社4000人余の従業員もこの“みんなの幸せ”のオーナーの願いに共鳴して社会奉仕に参画しております。
人の一期一会の出会い、事業家の心に宿る社会奉仕への強い意志と思い、それを実現させるために、最小の経費と最大の効果を上げる、公益法人としての使命と運営、これらが合体して、人の心に宿る小さな一滴が花開き具現化し、次世代を担う一握りの若者へのささやかな支援が結実します。
そしてそこから生まれる有能な人材が、日本のアパレル業界の未来作りに貢献していくものと期待しております。
人の心、善意の一滴の広がりが 若者の心に宿り、未来への期待となる。
寄稿者名:吉本 邦晴
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