今西錦司の「棲み分けの進化論」を人類社会に応用して考えると、個人が属する部分社会、とりわけ「国家」の統治形態の環境適応性・持続可能性の有無が、個人の生存に大きな影響を与えることがわかる。民主主義の国家では、菅首相のいう自助・共助・公助、社会民主主義国家では公助が、個人の生存(環境適応と生存維持)に大きな影響を与えるからである。元帝国主義国家では、元本国では民主主義が確立していても、元植民地では確立していない、あるいはその途上(自治領など)である例がまだ多くの地表に見られ、それが国家と住民の紛争の種となっている。かつての帝国主義国家の植民地統治には二種類の方法があり、西英米らは抑圧政策、ポ仏日などは同化政策を採った。なお米国は独立時の13州が元本国、のち戦争や開拓した獲得した諸州が元植民地であり、ドイツは移民受け入れ大国だが、単一民族ドイツ人による連邦国家である。
元英領の香港では今も民主主義への渇望が強く、民主化リーダー周庭さんが日本語で民主化を訴えたのに対し、台湾では、蔡英文総統が再選時に日本語で、共に民主主義の確立のために頑張ろうと訴え、京大に留学し日本軍に従軍して戦後民主主義台湾の総統となった李登輝の葬儀を盛大に行うなど、日本の植民地統治から民主主義を学んだ台湾と、元英領の香港とで大きな違いがみられる。元ポルトガル領のマカオはその中間にあって、自治領としての地位を今も享受して、新本国・中国との争いはない。
香港・マカオ・台湾の現状と、平等・博愛なき新自由主義・格差ポピュリズム米国の現状は、鄧小平以降、社会主義から資本主義へと舵を切った中国の将来を考えるうえで、大きな参考となる。政治的には発展途上国である中国を、健全な資本主義の道に歩ませ、再び世界から尊敬されるような平和文化大国に戻すには、自由・平等・博愛の民主主義を確立せねばならない。社会民主主義の道を選ぶかどうかは、中国自身が決めることである。帝国日本の植民地政策は社会民主主義であった(辛島)。それ故インドは戦後も終始日本に好意的であった。最近中国は内蒙古に対し、日本がかつて朝鮮・台湾にしたような同化政策を採り始めたときくが、前世紀日本の植民地政策を今から始めるのでは失敗する。より大切なのは孫文が提唱した三民主義(民族主義・民生主義・民権主義)の実践である。
中国は国民党と共産党が協力して、英米の協力を得て、日本帝国主義を清国領土から追い出した(ABCD包囲網)。いま国内格差大国兼対外覇権大国、米国の攻勢から中国を救うのは、民進党と共産党の協力である。ソ連邦以来成功しない共産党独裁から脱して民主主義政権に移るには、中国による三民主義への理解が必要である。民生主義と民権主義が日本で再確立するなら、日本による中台和解の仲介も夢でない。「今より以後、世界文化の前途にたいして、結局、西方覇道の手先となるのか、それとも東方王道の干城となるのか、それはあなたがた日本国民が慎重にお選びになればよいことであります」(1924年・神戸にて孫文)。
(2020.9)
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