趣味は人それぞれ、多種多様である。商社マンとしてニチメンと双日で42年間日本と中国で忙しく働いている頃、なかなか趣味に没頭する時間がなかった。それでも商社マン退職後の現在も続いている小生の唯一の趣味が船釣である。
中国駐在中は北京と大連で釣りを楽しんだ。北京駐在時、北京には既に‟北京日本人会釣り同好会”がありよく釣行に参加した。北京は流石に海が近くにないので、池や湖での鯉・ハクレン等の淡水魚釣や養殖場でのマス釣りが主だった。また年に1回同好会でバスを仕立て北京から秦皇島へ遠征、港の岸壁からの投げ釣りでハゼを釣りに行った。大連は遼東半島の突端に位置し、西は渤海湾と東は黄海に挟まれ、起伏に富んだ数多くの漁場があり、中国でも有数の釣りを楽しめる場所である。2005年から2008年まで3年間、双日から日本貿易振興機構(JETRO)へ出向、同機構大連事務所の海外投資アドバイザーとして勤務、その間、大連で船釣を楽しんだ。大連の船釣のシーズンは気候のよい4月から10月までの7ヵ月に限られる。冬場は零下10度以下となり、強風と高波で船釣りどころではなくなる。大連には日本本社から派遣された日本人駐在員も多く、その中の釣人が何人か集まって船釣を楽しんだ。大連に進出した日系企業が設立した“大連日本商工クラブ”(現:大連日本商工会)があったので、同クラブの同好会として“大連日本釣同好会”を立ち上げ、初代同好会会長に小生が就任した。この同好会は現在も大連で存続しており、冬場のオフシーズンを除き毎月楽しい釣行を行っていると聞く。
日本の一般的な釣船(遊漁船)は全長10-13m位のFRP(繊維強化プラスチック)製船体に400~430馬力のエンジンを積み、巡航速度20ノット(時速37km)、最高速度28ノット(時速52km)が出せる。従い出航から1時間強も走れば遥か沖合の釣りスポットまで簡単に移動できる。日本の釣船とは可也違い、小生大連駐在時の船釣りは木造漁船(下記写真)をチャーターして行う釣りが主だった。大連の木造漁船は焼玉エンジン(ピストンとシリンダーを使うレシプロエンジンの一種類で、焼玉という特徴的な点火機構を持つエンジン)の船が多く、最高速度は10ノット(時速18.5km)が精一杯で自転車よりも遅い速度しか出ない。そのため大連の船釣は陸地の近場の海での釣になる。
大連付近の海で釣れる魚はクロソイかアイナメ(写真下記参照)である。釣餌は生きたドジョウを鼻掛け(釣針を生きた魚の鼻に通して魚を水中で泳がせて釣る釣法)にして釣る。中国の釣りは何匹釣ったかではなく、何kg釣ったかで競う。釣行に出ると1回で数キロは釣れる。釣った魚の料理法は、釣ったその日は刺身、釣った翌日は焼魚またはホイル包み焼き、3日目はバター焼きにして食べるのが常だった。余りに多く釣れた日は、魚を開いて内臓と鰓(エラ)を取り一夜干しを作り、干した後ラップで巻き冷凍保存、それを解凍し焼いてよく食べた、日本の干物程美味しくはないが、当時の大連では日本製の干物は売ってなかったので、結構重宝した。
これまで釣り上げた魚で一番大きな魚は、中国大連市の沖にある圓島(YUAN DAO)付近で釣った真鱈で体長94cm、重さ約10kgの大物(写真以下参照)である。
この時、乗船した船は日本から輸入された日本製の中古釣船だが、日本製エンジンがダメになり中国製エンジンに積み替えた船だった。従い巡航速度10ノット(時速18.5km)、最高速度15ノット(時速28km)位しか出なかった。土曜日の昼過ぎに大連海事大学港を出発、約4時間近く走って大連港の東南約39.8海里(約73.7km)の黄海海上の圓島(以下地図の赤丸が‟圓島“)近くの釣りスポットに到着、夕方から翌日の午前まで夜通しの釣りとなった。棚(=魚が釣れる水深)は45~60mで錘は100号(375g)、餌はユムシ(赤色の海産無脊椎動物)またはイカの短冊を使用。徹夜の釣果は真鱈4匹(上記写真が最大の真鱈)と40cmを超える丸々と太った大型のクロソイ2匹と大漁だった。真鱈の引きはそれほど強くないが、魚体が大きいので手巻きリール(手巻きで釣糸を巻き取る道具のこと、釣竿に取り付けて使う)の巻き上げでは可也厳しく、日本から持参した電動リール(モーターの動力で釣糸を巻き上げるリール)が実に役に立った。
翌朝日曜日の昼前に納竿、また4時間船で走って帰港、そこから車で大連市内に戻った。釣り上げた魚を社宅に持ち帰って、何とか解体、三枚におろしたが、疲れ果てとても自分で料理にする気になれず、事務所の近くの日本料理屋に持ち込んで真鱈鍋にして貰って食べた。翌日の昼、同じ店で事務所の仲間に真鱈のフライを振舞って好評だった。
さて日本ではアジ・真鯛・クロダイ等の釣りを三浦半島で楽しんでいる。毎年5月には三浦半島金田湾の定置網付近で、体長50㎝前後のクロダイ(下記写真)を狙うことにしている。クロダイは釣宿の船長が特注の1本竿(継ぎ目のない竿)を使い、オキアミのコマセ釣り(コマセとは魚を集めるための撒餌(マキエサ)、コマセを籠に入れ水中に投下して釣る釣法)である。棚は20~50mと深くないので、手巻きの両軸リール(両側で支えたスプール(釣糸を巻いている部品)を直接回転させて釣糸を巻き取るリール)で釣りが出来る。アジは棚が50~100mと深いので電動リールを使わないと無理である。釣の楽しみは何と言ってもその日に取れた新鮮な魚をその日の内に美味しく食べれることである。釣った魚は基本的に刺身で食べ、頭と中骨は良いだしが出るので潮汁にすることにしている。長年釣魚を料理してきたお陰で、魚の捌きと刺身作りは手慣れたものである。また外道で釣れたサバもしめ鯖にして食べると実に美味である。
以前は房総半島の千倉や金谷に泊りがけで船釣を楽しんでいたが、誠に残念なことに釣行の手配をしてくれていた友人が他界してしまい、ここ数年は出かけていない。また最近は釣人の高齢化で船釣をする人が減ったことと、釣宿の船長の老齢化も進み、廃業する釣宿が増えているのは実に残念なことである。自分が元気な内は三浦半島の船釣を楽しみたいと思っている今日この頃である。
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