「世界平和の基盤としての経済」
~コロナ後の世界経済と平和の構築~
2021年2月18日
要約:政治、文化、平和の基盤は経済である。平和の基盤たる世界経済がグロ-バル化した世界に急激に感染拡大したコロナパンデミックにより、世界は戦後最大の経済不況にあえぎつつある。コロナ後の世界経済をいかに立て直し、格差のない社会と世界平和を希求すべきか。格差拡大をもたらしつつある資本主義の再構築も含めて、経済の視点から平和問題を論じる。
1. コロナ禍の現状:
2月12日現在、世界全体の感染者数は米ジョンズホプキンス大のデ-タによれば1億800万人弱。死者数240万人弱。国別では米国が感染者2740万人弱、死者47万人強と最大だ。次いでインドが感染者1088万人(死者16万人弱)、ブラジル971万人(死者24万人弱)、メキシコ200万人弱(死者17万人強)、英国400万人(死者11万6000人弱)、イタリア268万人(死者9万3000人弱)、フランス350万人弱(死者8万人強)、スペイン300万人強(死者6万4000人強)ドイツ232万人強(死者6万4000人強)とインド、ブラジル、メキシコを除けば欧米が圧倒的に多い。アジアではインドネシア119万人(死者3万2000人強)、フィリッピン54万3000人強(死者1万₄1500人弱)、日本41万2500人強(死者6800人)、中国10万人強(死者4800人強)と日本が中国の4倍以上に感染者が増加しているのは、日本のPCR検査が諸外国に比べて極端に少ないことも含めて問題である。
世界銀行によると変異コロナウイルスの感染も拡大しつつあり、発展途上国では特にサブサハラ地域を中心に、医療設備の不足、医療体制の不備により、コロナ禍の影響で、困窮が一段と加速し、保健のみならず、若者の教育にも甚大な影響を与えていると警告を発している。それはとりもなおさず、発展途上国の平和構築にも影響をもたらし、早急なる対応策が望まれる次第だ。
2. 世界経済の現状と見通し
世界銀行によると、20年の世界のGDPは前年比4.3%減で、21年も4%増にとどまるとの見通しだ。先進国は20年5.4%減。21年3.3%増。米国は20年3.6%減から21年には3.5%増に改善見込みだ。打撃が大きいユ-ロ圏は20年は7.4%減。21年は3.6%増。日本は20年5.3%減、21年2.5%増と米国、ユ-ロ圏より回復の勢いが弱いのは問題だ。
コロナ禍をいち早く抑え込んだ中国は2020年のGDP成長率は2%のプラス、21年は7.9%増と独り勝ちの状態だ。中国以外の新興・途上国は20年5%減。21年3.4%増にとどまる見込みである。途上国の政府債務は20年に急上昇し、南米などの債務危機が問題化した80年代後半以降で最も深刻である。
世銀は世界的な格差拡大や、新興国の債務危機の危険性について警鐘を鳴らしている。今回の不況について「過去150年間で、二つの世界大戦と世界大恐慌に次ぐ深刻さだ」との認識を表明。
かかる状況下、昨年11月にG20は最貧国の債務を減免することで合意したが、世銀はこのような国際協調の必要性を強調している。経済発展のエンジンとして期待されているアジア新興国の2021年の経済成長率は最近のIMFの予想では8.3%増と欧米を大きく上回る。マネ-の流入も活発になっている。 国連主導のSDGsやESG投資も動き出している。先進国のESG投資が加速するとさらなる発展が見込まれるだろう。
3. 世界平和と経済発展
経済は政治、文化、平和の下部機構である。政治、社会、文化、平和構築の基盤は経済である。したがって平和希求のためにはまず下部基盤の経済を強化することが肝要であるというのが筆者の信念である。 イタリア・ルネサンスはフロ-レンスの金融財閥メデイチ家の財力が基盤にあった。ローマ帝国は領土内の経済基盤を固め、パクス・ロマーナ(ロ-マの治下の平和)をもたらした。産業革命で世界の7つの海を制覇した英国はパクス・ブリタニカの下、世界を制覇した。二つの大戦に勝利した米国は戦後世界のGDPの50%近くを抑え、20世紀後半、パックス・アメリカ-ナの下、世界の軍事、経済、政治を抑えた。しかし21世紀に入ると世界の経済発展の軸がアジアに移動しつつある。アジアと中国のパクス・アシア-ナ、パクス・チノアの世紀が到来しつつある。
アジアの世紀、特にポスト・コロナ禍の世界は、これまでの大量生産、大量消費、大量環境破壊、利益追求一点張りの古い資本主義から利害関係者すべてが恩恵を受け特にアジアから格差の少ない社会、平和な世界の構築に尽力すべきと思われる。世界の平和構築には政治、文化、平和のための基盤の下部機構である世界経済を発展、強化し世界を豊かにすることが必須だというのが筆者の信念である。
地政学的には21世紀に発展するアジアから平和を構築する努力が肝要だ。東アジアでは発展しつつあるASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国からなるAEC(アセアン経済共同体)、さらに2020年11月に締結された画期的なRCEP(東アジア包括的経済連携=ASEAN10カ国に豪州、ニュ-ジ-ランド、日本、韓国、中国を加えた15か国が参加=インドは脱退)。人口22.6億人(世界の30%)、GDP26兆ドル(世界の30%)。
英国も参加を申請したTPP(環太平洋経済連携=11カ国、人口5.1億人(世界の6.7%)GDP11.3兆ドル(世界の13%)などで経済基盤を強化し、世界の経済発展とさらに世界の平和構築に努力することが望まれる。
一方、中国、ロシアが主導し、21世紀に発展するユ-ラシアの広域経済圏SCO(上海協力機構=中国、ロシア、タジキスタン、キルギス、カザフスタン、ウスべキスタン、インド、パキスタンの8カ国が加盟、他にモンゴル、イランなどがオブザ-バ‐)、ロシア、カザフスタンが主導するEEU(ユ-ラシア経済連合=ロシア、カザフスタン、ベラル-シ、キルギス、アルメ二ア)に加え、中国が注力する21世紀に発展が見込まれる世界の陸地面積の40%を占めるユ‐ラシア大陸を中心とする広域経済圏構想「一帯一路」などが今後のアジア、ユ-ラシア、アフリカなどで、ポストコロナで大きな影響力を発揮するものと思われる。
日本もグロ‐バルな視野からこれらアジア、ユ-ラシアの広域経済圏構想に世界平和の観点からも参加を真剣に検討すべきと思われる。
4.「和をもって貴となす」
世界平和構築の為には、まず現下のコロナ禍のポストコロナを見据えた21世紀の構想を構築すべきである。新型コロナの世界的流行は人々の生活様式を変えるのみならず、世界経済や国際秩序のあり方を一変させた。二大国の米中対立は貿易から先端技術、人権問題、安全保障へと拡大し、米中が対立を深める中、我が国はこれまで以上に外交手腕の発揮が求められている。2021年以降のポストコロナ時代を見据え変化する世界情勢を見極め、欧州を含むユーラシア地域やインド太平洋の動向を把握し、21世紀アジアの時代に備えて、特に域内の大国、中国とインドとの関係を強化しつつ米国、欧州との関係強化も図る必要がある。
そのためにはコロナ危機を絶好の機会としてとらえ、デジタル・トランスフォーメーション、リモ-トワークを含めた新たな働き方を希求することである。コロナで世界のグロ-バリゼ-ションは減速したが、各国は地球温暖化という21世紀の地球人類の難題への解決に向けて動き出しつつある。 米バイデン新政権はパリ協定への復帰を宣言。世界最大の世界の28%を占めるCO2排出国の中国の習近平・国家主席は20年9月の国連総会で2060年までにCO2排出量を実質ゼロにすると表明した。日本も2050年CO2排出量をゼロにすると確約。分断しては解決できない環境問題に各国が取り組み出したことは国際協調、世界平和構築のためにも素晴らしいことである。日本、中国、インドが相協力して、まずアジアからCO2排出量ゼロに向けて協力すべきであろう。
かって聖徳太子は1400年前に「和をもって貴となす」と喝破された。格差のない21世紀の新たなる万人の幸せを目指し、平和を希求する新資本主義の構築に日本が率先して尽力すべきだ。それが広島、長崎で原発の洗礼を受けた日本の使命でもあろう。
『南洲翁遺訓』で「敬天愛人」、「天から与えられた道を実践せよ」と喝破した西郷隆盛、『論語と算盤』の渋澤栄一の儒教思想、「アジアは一つ」とアジアの結束を唱えた岡倉天心、国際主義を早くから標ぼうした新渡戸稲造、禅の思想を喧伝した鈴木大拙、平成に著書『人間の経済』などで「富を求めるのは道を開くためである」、「資本主義の暴走を止めよ」と唱えたノ-ベル経済学賞候補にもなった宇沢弘文・東大名誉教授などの思想を世界平和の基盤として活用すべきである。
ユ-ラシア大陸のシルクロ-ドから日本文化の源流を受け入れた日本はポストコロナの21世紀の世界経済再構築、世界平和希求に向けて今こそ尽力すべき時である。
以上
主要参考文献:
- 1.『米中新冷戦とアフタ‐・コロナ』近藤大介 講談社現代新書 2021年1月
- 2.『人新世の「資本論」』斎藤幸平 集英社新書 2021年1月
- 3.『菅政権と米中危機』手嶋龍一・佐藤 優 中公新書ラクレ 2020年12月
- 4.『地政学』奥山真司 新星出版社 2020年10月
- 5.『シルクロ-ド 世界史』森安孝夫 講談社選書 メチエ 2020年9月
- 6.『ス-パ-大陸~ユ-ラシアの地政学』ケントEカルダ‐潮出版社 2019年11月
- 7.『最新 世界情勢地図』パスカル・ボ二ファス他 Discover 2019年3月
- 8.『人間の経済』宇沢弘文 新潮新書 2017年4月
- 9.『茶の本、日本の目覚め、東洋の理想』岡倉天心 ちくま学芸文庫 2012年6月
- 10.『ユ-ラシアの地政学』石郷岡 建 岩波書店 2004年1月
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