今、中国製ラジコン玩具(=ラジオコントロール玩具、無線により遠隔操作する玩具)が業界の主流となっている。今回はこのことについて少し考えてみることにする。
まず経済的な側面をみてみよう。最初に世界貿易の中の中国の立ち位置をみると、なんと中国は世界貿易でトップを走っている。中国は世界貿易(2019年)の中で輸出入総額が4,473,204百万米ドルで第1位(12.0%)と輸出は下表の如く第1位、輸入も米国に次ぎ第2位の貿易大国である。因みに日本は輸出入総額1,399,307百万米ドルで第4位、輸出は下表のごとく第5位、輸入は第4位である。
では何故中国の貿易がこのように大きくなったのか? 答えは簡単である。鄧小平が総設計師として導入を進めた改革開放政策のお陰である。中国の経済発展は下表を見れば一目瞭然である。
鄧小平は1976年に三度目失脚後、1977年に復権。その後実権を握り、改革・開放へ中国の舵を大きく切った。中国が改革開放政策を開始したのは、1978年12月18日開催の中国共産党第11期中央委員会第三回全体会議(所謂「中共第11期三中全会」)において国の方針をそれまで毛沢東が推し進めきた「階級闘争」に終止符を打ち、「経済建設」へと大転換することを決定。改革開放政策の導入によってその実現を図ろうとした。つまり表向きは社会主義を堅持した上で、部分的には資本主義的な要素を取り入れた経済を活性化し、遅れた技術と不足する資金は海外に求めるという「いいとこ取り」を進めようとした。これが現在まで中国が一貫して進めてきた「改革・開放路線」のスタートである。「白猫黒猫論」(白い猫も黒い猫も、ネズミを獲るのはいい猫だ、資本主義的な手法か、社会主義的な手法かではなく、生産力の発展こそが第一)、「先富論」(可能な者から先に裕福になれ。そして落伍した者を助けよ)を唱えた鄧小平らしい政策といえる。
ではどの位の経済発展を成し遂げたのか、改革開放路線が始まったばかりの1978年と2020年の比較してみよう。下表を見て欲しい。両者の倍率を算出してみるとミラクルともいえるような経済発展を遂げている。GDPとは簡単に言えばその国の国民が一年間に稼いだお金の総額のことである。GDPが96倍に増えたことにより、国も企業も個人も大変潤うようになった。改革開放路線の成功は、中国国民の努力の賜物と言ってよいだろう。
上図から頭打ち傾向にはあるものの中国製の玩具・雑貨の世界の輸入に占める割合は半分近くを占め、中国製品が世界中で溢れかえっていることが分かる。
以上、長々と中国の経済発展と貿易について述べたが、ここでやっと本題の中国製ラジコン玩具の話をしたいと思う。中国製玩具の中で性能がよく、且つ価格が比較的に安くて魅力的なのはラジコン(=RC:ラジオコントロールの略)の自動車・戦車・飛行機・ヘリコプター・ドローン等である。ここ数年、筆者はラジコンの飛行機と戦車を趣味として楽しんでいるので、日本または中国のラジコンメーカーの製品を通販で購入して楽しんでいる。以下、ラジコン飛行機とドローンについて紹介したい。
筆者が小学生の頃に憧れた空を飛ぶ模型飛行機は、エンジンをつけたUコンだった。Uコンは価格が高くてとても小学生には手の届かない玩具であった。50年程前日本でモーレツに流行ったUコンはアメリカから伝わったエンジン付きの模型飛行機。2本のワイヤーを使い操縦機能を上昇/下降だけに絞った模型飛行を、ワイヤーの操作により離陸/空中回転/着陸させる。従いワイヤーの長さの範囲で飛ばすエンジン模型飛行機である。
その後、電子技術の発達により、模型飛行機内部に受信機とサーボモーター(サーボ機構において位置及び速度を自動制御できるモーター)を取り付けた飛行機本体とこれを無線送信機(プロポ=ラジコンの制御方法の種類の一つであるプロポーショナル式の略、比例制御)で操縦するラジコン飛行機の時代が到来した。
ラジコン飛行機の動力は2種類あり、エンジンをつけたもの(エンジン機)とモーターをつけたもの(電動機)がある。エンジン機の燃料はニトロメタン・ひまし油・エタノール等の混合だが、排気と騒音が酷いこと、かなりの飛行スペースがないと飛ばせないという問題があり、狭くて人口が密集している東京を含めた日本の都市部では飛ばす所が殆どない。またエンジンを小型化するには限度があり、重量のあるエンジンをつけて飛行機を飛ばすには機体も大きくする必要がある。従いエンジン機はどうしてもお値段が高くなる。
エンジン機はどうしても騒音やエンジンの煙の問題が解決できない。そこに登場したのが電動機である。
電動機が普及した理由は以下である。
- 電子技術の発展によりラジコン飛行機に搭載する受信機が小型/軽量化できるようになった
- 小型で高出力のブラシレスモーター(詳細後述)が出現しラジコン飛行機に利用されるようになった
- リポ電池(リチウムイオンポリマー二次電池、電解質に重合体(ポリマー)を使用したも電池)の出現により小型で高容量のバッテリーがラジコン飛行機に使用できるようになった
- 機体をEPO(発泡ポリオレフィン)やEPP(発泡ポリプロピレン)等で製造が可能となり、機体自体の重量が軽くなり、モーターでも飛行が可能となった
以上の4つの条件から、小型/軽量で高性能の電動機が安価で供給できるようになった。
筆者が所有している機体は、中国で有名なラジコン飛行機製造メーカーであるFMS(本社所在:広東省東莞市)の零式艦上戦闘機(ゼロ戦)で、翼長750mm、胴体全長570㎜の大きさだが重量は僅か460gである(下図)。
3~4時間のリポバッテリーの充電で6分程度の飛行が可能である。(FMSゼロ戦にご興味のある方は以下URLを参照されたいhttps://www.fmsmodel.com/product/fms-800mm-315-zero-v2-pnp/77/)
また、最近のラジコン飛行機やドローンのモーターは殆どがブラスレスモーター(=ブラシと整流子を持たないモーター、一般的には直流モータのうち、ブラシの機能を電子回路で置き換えたものを指す)である。ブラシレスモーターを回転させるためにESCという電子コントローラーでモーターに流れる電流を制御してモーターを高回転/高出力で回転させることが可能となり、高速の飛行を可能にしている。
一方、ラジコン飛行機やドローンを飛ばす際は、国土交通省の法規や東京都なら東京都の条例があり、東京23区内で飛ばせる場所は、私営のドローン練習場を除き殆ど飛ばせる場所がない。
小型無人飛行機(飛行機+ドローン)の飛行禁止の法律と規制:
- 小型無人機等飛行禁止法
- 電波法
- 公園条例
- プライバシー権
- 肖像権との関係
- 土地所有権との関係
- 文化財保護法
- 海上/港周辺の規制
- 河川区域の規制
- 道路交通法
(上記詳細はhttp://topcourt-law.com/ai-iot/hobby_drawn_regulationを参照)
2015年4月22日に首相官邸屋上で発煙筒などを搭載したドローンが発見されたことから、東京都はそれを受けて、2015年4月28日よりドローンを含めた小型無人機の使用を禁止。公園条例で全部で81カ所ある都立公園・庭園は小型無人飛行機の飛行を全面的に禁止している。
(詳細はhttps://www.drone-enterprise.com/blog/697を参照)
また、ドローンの飛行が問題になって、2015年12月に改正航空法が施行され、国土交通省の承認許可なしに飛行できる最高高度は150mに制限された。航空機の航行の安全に影響を及ぼす恐れのある空域というのが理由であり、許可なしに150m以上の飛行は規制されているのが現状。(尚、機体重量が200g未満のラジコン飛行機/ドローン等は航空法の対象外となるが、上記のその他の法律/規制で自由に飛ばせない)
人口密集地域では小型無人飛行機を飛ばすことは違法行為となり、処罰の対象となる。また、羽田空港/成田空港/自衛隊施設/在日米軍施設の周辺等も航空機の飛行の障害となることから小型無人飛行機は飛ばすことが出来ない。東京居住者にとって小型飛行機を飛ばせる場所が中々ないのが一番頭の痛い問題である。
日本のラジコン店、ネット通販店では90%以上が中国製の製品と思われる。例えば日本で有名なラジコンメーカーである京商やハイテックマルチプレックスジャパン等が日本でラジコン飛行機/ドローン/自動車(以下RC玩具)を販売しているが、実は多くの製品は中国のRC玩具メーカーに発注、中国メーカーから仕入れて、自社のロゴを付けて売っている例も増えてきている。理由は簡単で、やはり中国の安い人件費・原料費・製造キャパを利用して価格競争力のある玩具を輸入販売している次第である。中国でラジコン関係の工場や事務所が密集しているところといえば広東省(深圳、汕頭、東莞等)や香港である。
最後にいま流行りのドローンについてお話しておこう。
ドローン(英:drone)とは元々ハチの(ブーンという低い)羽音、はばたき、ハミングという意味である。
ドローンが飛んでいると4つのプロペラの回転音が羽音に聞こえるのでドローンと呼ぶようになったようである。
ドローンは既に大きな市場規模に達している。矢野経済研究所によると2018年のドローン世界市場規模は、軍用需要と民生需要を合わせて約1.6兆円(145.5億米ドル)、2020~2025年の年平均成長率(CAGR)を8.3%と予測している。2018年に世界で出荷されたドローンの機体数は400万機、国別シェアで見ると米国は37.5%の150万機で1位、日本は3.8%の15万機。用途別に見ると9割がホビー用で残り1割が産業用である。元々ドローンは軍事用、現在は商業用・コンシューマー(個人が買って遊ぶ)用と用途が移っている。また2017年頃から業界全体がホビー用から産業用ドローンへシフトする動きが見られ、ドローンが数々のビジネスに導入されている。2020年8月31日、米連邦航空局からAmazon.comがドローンによる配送サービスの認可を受けたことも話題となった。
最近TVの報道番組/ドキュメンタリー番組/バラエティー番組/旅行番組などで空から地上を映した映像がよく放映されている。一昔前なら取材用のセスナなどの小型飛行機やヘリコプターで撮影が必要だったが、今はコストも安く手軽に空撮が出来るドローンが主体となっている。ドローンのシェア率が70%を超えるDJI(詳細後述)のPhantomシリーズに限定すれば、500mの高度まで飛行可能といわれている。日本の建物の高さと比べると、六本木ヒルズ238 m/東京タワー333m/スカイツリー634mなので、スカイツリーの展望台(450m前後)から眺めた位の画像が撮れることになる。
ドローン主要メーカーのトップを走るのが中国は深圳のDJI、2014年に売上5億米ドル、2016年には15億米ドルと公表、2018年以降、DJIは売上を公開していないが、2020年の売上は1,660億元(約2.9兆円)前後だと推定されている。2021年時点のドローンメーカー全体のうち、DJIは約7割の圧倒的なシェアを1社で握っている。ドイツの調査会社ドローン・インダストリー・インサイツが2020年6月に発表したレポートによれば、商用ドローン市場におけるDJIの世界シェアは70~80%に達し、商用ドローンの世界市場は2025年までに428億米ドル(約4兆4,234億円)規模に拡大する見通である。
他の主要ドローンメーカーはフランスのParrot(パロット)やアメリカの3DRobotics(スリーディロボティクス)が挙げられる。DJIを含めたこの3社が現在世界のトップ。またその他400社以上がドローンメーカーが存在している。中国とアメリカに現在はドローンメーカーが集中しているようである。DJIはカメラメーカーのハッセルブラッド社を買収しその技術をドローンに利用するなど、ここ最近は小型の空撮用機体メーカーへの転身を図っている。ドローンメーカーはより小型、軽量、持ち運びに便利な機種、そして低価格化といった方向に向かいそうだ。
アメリカ商務省は2020年12月18日、アメリカの安全保障や外交政策上の利益に反する企業等を列挙した「エンティティー・リスト」に77の企業や個人を追加指定、その大部分が中国の企業や研究機関であり、そのなかには民生用ドローン世界最大手のDJIの社名も含まれている。アメリカ政府は、自国企業がエンティティー・リストに指定した外国企業に対して輸出管理規則が定める製品や技術を許可なく譲渡することを禁じている。仮に米国企業が輸出許可を申請しても、一部の例外を除いて却下するのが原則であり、事実上の禁輸措置になっている。今後のDJIへの影響に注目が集まっている。
おわり
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